やちまた
国文法学者の本居春庭は、宣長の嫡子である。幼くして視力を失いながら、努力の人である。「詞の八街(ことばのやちまた)」を世に問い、現在の国文法の基礎を築いた人物である。もともと宣長は国学の研究者であり、春庭も、大いにこの影響を受けた。伊勢松阪の本居宣長記念館に、膨大な資料が現存する。蔵の中には、未整理の資料が数多く眠っているということだ。
足立巻一氏の「やちまた」(上・下)に詳しい。現在は絶版である。この本の存在は、学生時代から知っていたが、先立つものがないと思っているうちに書店からは姿を消してしまった。そうすると、是が非でも手に入れたくなるのが私の性格である。図書館で借りたものを、すべてコピーして、とりあえずの所蔵とした。
かなりの蔵書家である国文学研究者のある方と知り合いであるが、私が、あんまり「やちまた」の話をするものだから、気の毒に思ってか、貴重な版本「詞の八街」(上下二巻)と足立巻一「やちまた」(上下二巻)をくださった。
平成二年になって、再版され、書店の棚に昇ることになる。それほどに、国学研究者の需要が高かったのであろうと思う。
私が「やちまた」を、日本点字図書館に持ち込んだのは、平成7年の夏である。視力に障害をおいながら、家族の協力の下、大成する春庭の行き方を是非紹介してもらいたいという趣旨で、「やちまた」の録音図書製作をお願いした。趣旨が理解され、製作が決定したものの、あまりの読字の難解さに、音を上げたようだ。松阪の本居宣長記念館で、宣長を研究されている吉田先生には、以前お世話になったことがあるが、その節、漢字の読み方について何度もやりとりされ、手を煩わせたたと聞いた。
よいものは、何年経っても色あせない。そんなことを考えている。
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